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【1999-1-2】携帯電話電波(929.2MHz)がラットの肝臓がんに及ぼす促進作用に関する研究

目的

動物実験では、脳腫瘍を発症させるのに時間がかかるという問題があります。また先行研究では、ある種の化学物質による脳腫瘍への影響が電波ばく露によって強められることはないことが示されています。

このため本研究では、肝臓がんの発がん因子または促進因子の検出方法として充分に確立されている、中期肝発がん試験法を用いて、929.2MHzのパルス変調電波の局所的なばく露が、化学物質で誘発させたラットの肝臓がんを促進する潜在的可能性を検討することを目的としました。

方法

我が国の標準規格であるPDC方式の携帯電話に用いられている、929.2MHzのTDMA信号(50パルス/秒、デューティ比33%)を、1/4波長のモノポールアンテナからラットに照射しました。局所最大SARの時間平均値は、全身では6.6~7.2W/kg、肝臓では1.7~2.0W/kgでした。全身平均SARの時間平均値は、0.58~0.80 W/kgでした。電波ばく露は90分間/日、5日/週、6週間にわたり実施しました。ラットの体の中央部側面から電波を局所的にばく露させることができるように、この実験のためにばく露装置を特別に設計しました。雄のF344系統の雄のラット(6週齢)に対し、肝臓がんを誘発するために発がん物質のジエチルニトロソアミン(DEN)を体重1kgあたり200mg投与しました。2週後、ラットを1匹ずつプラスチック製のシリンダーに固定した状態で、電波ばく露または偽ばく露(各48匹)を開始しました。3週目に、全てのラットに対して肝臓の2/3切除を実施しました。8週目(6週間のばく露または偽ばく露後)に実験を終了しました。対照群(24匹)はシリンダーに固定せず、DEN投与及び3週目の肝臓の部分的切除のみを実施しました。実験終了後に各ラットの体重及び主な臓器の重さを測定しました。そ の後、摘出した肝臓の部位ごとに標本を作成し、画像処理装置を用いて、肝臓がんの前がん病変の指標である胎盤型グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST-P)陽性細胞巣の個数及び面積を比較することにより、発がんの潜在的可能性を点数付けしました。また、ホルモン分析のため、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、コルチコステロン、メラトニンの血清レベルを測定しました。

結果

電波ばく露群及び偽ばく露群における体重、肝臓及び脾臓の重さは、対照群と比較して有意に低かったものの、ばく露群と偽ばく露群との間には有意差はありませんでした。偽ばく露群におけるGST-P陽性細胞巣の個数は、対照群と比較して有意に増加していましたが、電波ばく露群と偽ばく露群との間には、GST-P陽性変異細胞巣の個数及び面積に統計的有意差はありませんでした。電波ばく露群及び偽ばく露群におけるACTH、コルチコステロン、メラトニンの血清レベルは、いずれも対照群と比較して上昇していましたが、電波ばく露群における上昇のみ統計的に有意でした。

結論

電波ばく露群及び偽ばく露群の両方において、体重、肝臓及び脾臓の重さの低下が観察されたことから、この影響は電波ばく露のせいではなく、シリンダー内での固定による生理的ストレスのせいであろうと考えられます。両群における各ホルモンの血清レベルの上昇も、このことを裏付けています。但し、電波ばく露群のみに観察された有意な上昇は、電波による実際の影響を示唆しており、これについては解明の余地が残されています。本研究で用いた実験条件では、929.2MHzのPDC変調電波への局所ばく露には、ラットの肝発がんに対する有意な影響はないことが明確に示されました。

出典

Imaida K, Taki M, Yamaguchi T, Ito T, Watanabe S, Wake K, Aimoto A, Kamimura Y, Ito N, Shirai T. Lack of promoting effects of the electromagnetic near-field used for cellular phones (929.2 MHz) on rat liver carcinogenesis in a medium-term liver bioassay. Carcinogenesis. 1998 Feb;19(2):311-4.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9498282


WHO研究データベース

http://www.who.int/peh-emf/research/database/emfstudies/viewstudy.cfm?ID=13