【1999-1】高周波電波の発がんに及ぼす影響

研究目的

携帯電話などで使用されている電波による生体への影響を議論する際、科学的なデータに基づいたリスク評価が重要です。この研究では、ラット又はマウスを用いた動物実験により、携帯電話電波による肝臓の発がん、皮膚の発がんを電波ばく露が促進するかどうかを検討しました。

研究方法

①ラット中期肝発がん性試験による電波(900 MHz,1.5 GHz)の影響

本研究では、短期間に長期発がん性を調べることが可能な、中期発がん性試験法を新たに開発して、900 MHzおよび1.5 GHzの電波による発がん性、ならびに発がん性促進作用の有無を検討しました。 具体的には、電波を照射したばく露群と電波を照射しない偽ばく露群のラットを比較検討しました。ばく露群のラットには、ラットの肝臓に平均SAR 2.0W/kgの900 MHzまたは1.5 GHzの電波を90分/日、週5日間、6週間ばく露しました。


②マウス皮膚の発がんにおける電波(1.5 GHz)の影響

携帯電話のアンテナが近接する頭部皮膚を想定して、電波ばく露による皮膚発がん性について検討を行いました。 具体的には皮膚発がん物質である7,12-dimethylbenz anthracene(DBMA)を用いたマウスにより、1.5GHzの電波によるマウス皮膚の発がん影響の検討を行うこととし、電波を照射したばく露群と電波を照射しない偽ばく露群のマウスを比較検討しました。ばく露群のラットには、皮膚の平均SAR 2.0 W/kg、全身平均SAR 0.08 W/kgの電波を90分/日、週5日間、20週間ばく露しました。

研究結果

①ラット中期肝発がん性試験による電波(900 MHz,1.5 GHz)の影響

ばく露群と偽ばく露群との間で、肝臓の前がん病変の数、面積とも有意差は認められず、電波ばく露による肝臓の発がん性、ならびに肝臓の発がん促進作用は無いことを確認しました。


②マウス皮膚の発がんにおける電波(1.5 GHz)の影響

実験の結果、ばく露群と偽ばく露群ともに皮膚腫瘍の発生は全く見られませんでした。これは,1.5 GHzの電波ばく露がマウス皮膚の発がんに影響を及ぼさないことを支持する一つの証拠となります。

本研究から派生した論文

①ラット中期肝発がん性試験による電波(900 MHz,1.5 GHz)の影響

Imaida K, Taki M, Yamaguchi T, Ito T, Watanabe S, Wake K, Aimoto A, Kamimura Y, Ito N, Shirai T.Lack of promoting effects of the electromagnetic near-field used for cellular phones (929.2 MHz) on rat liver carcinogenesis in a medium-term liver bioassay. Carcinogenesis. 1998 Feb;19(2):311-4. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9498282

Imaida K, Taki M, Watanabe S, Kamimura Y, Ito T, Yamaguchi T, Ito N, Shirai T. The 1.5 GHz electromagnetic near-field used for cellular phones does not promote rat liver carcinogenesis in a medium-term liver bioassay. Jpn J Cancer Res. 1998 Oct;89(10):995-1002. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9849576

Imaida K, Hagiwara A, Yoshino H, Tamano S, Sano M, Futakuchi M, Ogawa K, Asamoto M, Shirai T. Inhibitory effects of low doses of melatonin on induction of preneoplastic liver lesions in a medium-term liver bioassay in F344 rats: relation to the influence of electromagnetic near field exposure. Cancer Lett. 2000 Jul 3;155(1):105-14. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10814886


②マウス皮膚の発がんにおける電波(1.5 GHz)の影響

Imaida K, Kuzutani K, Wang J, Fujiwara O, Ogiso T, Kato K, Shirai T. Lack of promotion of 7,12-dimethylbenz[a]anthracene-initiated mouse skin carcinogenesis by 1.5 GHz electromagnetic near fields. Carcinogenesis. 2001 Nov;22(11):1837-41. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11698347