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【1999-4-2】1.5GHz携帯電話の生物学的影響を調べるための小型動物における強い局所ばく露の実現

目的

本研究グループは、ビッグ・ブルー・マウスを用いて、1.5GHz携帯電話電波による脳細胞の突然変異の可能性を検討するための動物実験を実施しました。この研究の工学的見地からの目的は、実際の携帯電話使用時に人体頭部に生じるばく露に可能な限り近い、頭部への強い局所ばく露をマウスで実現することでした。携帯電話使用時の脳内における1g平均のピーク比吸収率(SAR)と頭部全体の平均SARとのばく露比は、20倍程度になることが知られています。このような条件をマウスでシミュレートするためには、電力吸収を頭部、特に脳に集中させると共に、全身平均の電力吸収は熱的ストレスを生じない程度に低くしなければなりません。我が国では、携帯電話に適用可能な防護指針で、局所SARが組織10g平均で2W/kgを超えないように制限されています。

このため、本研究では、(a) 実験動物の脳内における平均SARが2W/kg以上で、(b) 全身平均SARが熱的ストレスを生じないと考えられる0.4W/kg以下であるばく露装置を実現すること、つまり、脳平均SARと全身平均SARのばく露比を5倍以上とすることを目的としました。

方法

上記の目的のため、吸収技法を用いてマウスの全身平均SARを低減しました。一般に、マウスはばく露の際に、ばく露レベルを一定にするため、アクリル製のホルダーでアンテナの近傍に拘束する必要があります。このアクリル製ホルダーの頭部以外の部位を電波吸収材で覆うことで、全身平均SARを低くすることができます。このため、1.5GHzのプロトタイプばく露装置を設計し、解剖学的なマウスモデルを用いた詳細な数値解析を実施し、装置の妥当性を検証しました。この結果を、ファントムを用いた実験で確認しました。

結果

電波吸収材を用いた結果、全身平均SARは数値計算では0.27W/kgとなり、脳平均SAR(2W/kg)とのばく露比は7.4倍でした。ファントムを用いた実験の結果、温度センサー及び赤外線画像による測定値が、解剖学的なマウスの数値モデルを用いた計算結果と良く一致しました。

結論

マウスの脳内における高い局所ばく露と、低い全身平均SARを可能とするばく露装置を開発しました。マウス拘束用のホルダーを電波吸収材で覆うことにより、全身平均SARと局所SARとのばく露比7.4倍を実現しました。この装置の妥当性は、解剖学的マウスモデルを用いた数値シミュレーションと、ファントムを用いた実験により確認されました。

出典

Wang J, Fujiwara O. Realizing highly localized exposure in small animals with absorbing material covered holder to test biological effects of 1.5 GHz cellular telephones. IEICE Trans Commun. 2003 E86-B:1660-5.

WHO研究データベース

http://www.who.int/peh-emf/research/database/emfstudies/viewstudy.cfm?ID=1603