【2004-3】携帯電話使用中の聴性中潜時(MLR)反応の変化に対する研究

研究目的

携帯電話を用いた音声通話では聴覚を用いること、さらに携帯電話の音声通話利用時には端末を側頭部の位置で使われることが多いため、聴覚をつかさどる脳神経(主に聴覚神経系)への携帯電話の電波による影響を検討しています。

耳から入った音声は鼓膜から中耳、さらに内耳に伝わり、さらに聴覚神経から脳幹という中枢神経へと伝わります。今回の研究においては聴覚神経から脳幹にいたる聴覚経路に携帯電話の電波が及ぼす影響について神経生理学的方法により検討しました。

この聴覚経路を調べる神経生理学的手法として、聴覚機能ならびに脳幹機能を調べる聴性脳幹反応(Auditory Brainstem Response; 以下ABR)と、中枢神経の中で音の情報が処理する過程を検査する中潜時反応(Middle Latency Response; 以下MLR)の2つがあります。これらの検査手法は聴覚刺激を与えた後、聴覚神経の反応を脳電位の測定により行うものです。

これまでの研究においてArai等は30分間の携帯電話の使用前後においてABR、MLR共に影響が見られなかったと報告していますが、携帯電話の使用中における影響については検討されてきませんでした。2003年度の研究において、携帯電話の電波がABRに影響を及ぼさないことを確認しましたが、2004年度の研究では引き続きMLRへの影響を調べました。

研究方法

実験は聴覚に異常のない12名の成人を対象に行いました。

周波数800MHz帯、最大出力0.8Wの電波を被験者にばく露し、電波ばく露前、ばく露中、ばく露後における被験者のMLRの変化を調べました。

研究結果

携帯電話の使用中においてもMLRに変化が生じない結果が得られました。これらの結果より、携帯電話使用中の電波が、聴性脳幹、聴皮質までの聴覚伝導路の電気生理学的な反応には影響を及ぼさないことがわかりました。

本研究から派生した論文

新井俊憲, 岡部慎吾, 古林俊晃, 寺尾安生, 湯浅薫, 湯本真人, 宇川義一: 携帯電話の側頭葉抑制性介在ニューロンへの影響. 日本臨床神経生理学会誌 臨床神経生理学 32:122, 2004.