用語集

物理・規制に関する用語

主な用語について、総務省の資料などを元に概説する。詳細や関連情報については専門書などを参照されたい。

(1) 電波防護指針

10kHz~300GHzの周波数の電波を対象として、人体に不要な生体作用を及ぼさない安全な状況であるために推奨される日本(総務省)の指針であり、「基礎指針」と「管理指針」から構成されている。

「基礎指針」は人体への電波の刺激作用と熱作用を考慮した安全性評価の基準となる指針であり、直接測定ができない。「管理指針」は、基礎指針を満たすための実測できる物理量(電界強度、磁界強度、電力密度、電流および比吸収率)で表される。

指針値は国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)のガイドラインに準拠している。

(2) 比吸収率(SAR)

(英語)Specific Absorption Rate

生体が電磁界にさらされることにより単位質量の組織に単位時間に吸収されるエネルギー(電力)量を指す。単位は[W/kg]で表される。

電波防護指針では100kHz~6GHzの周波数帯での指針値は任意の6分間で平均化されたSARで定められている。

(3) 局所SAR

SARのうち、人体局所の任意の組織1gまたは10gにわたり平均したもの。身体の一部が電波にさらされる場合に適用される電波の評価量。

指針値は、任意の10g当たりの組織に6分間に吸収されるエネルギー量の時間平均で規定され、[W/kg]の単位で表される。

(4) 全身平均SAR

SARのうち、全身にわたり平均したもの。身体全体が電波にさらされる場合に適用される電波の評価量。

指針値は、任意の人体組織1kgあたり6分間に吸収されるエネルギー量の平均値で規定され、[W/kg]の単位で表される。

(5) 電力密度

電波伝搬の方向に垂直な単位面積あたり、もしくは単位体積、単位重量あたりの通過電力。身体全体が電波にさらされる場合に適用される管理指針は、電力密度に基づく指針値を含んでいる。

指針値は、6分間平均値で規定され、[mW/cm2]の単位で表される。

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(6) 入射電力密度

人体が電波にさらされることによって、人体の任意の体表面の単位面積あたりに通過するエネルギー量。

指針値は、6GHz以上での任意の6分間平均で規定され、[mW/cm2]の単位で表される(四肢(手首及び足首から先の部分)は対象外)。

(7) 吸収電力密度

人体が電波にさらされることによって、人体の任意の体表面の単位面積あたりに吸収されるエネルギー量。

入射電力密度との違いは、体表面に入射した電力は一部が反射して吸収されないことであり、吸収電力密度の値は入射電力密度よりも小さくなる。

(8) 電界強度

電磁界の電界の強さであり、電界は電子などの電荷に物理的な力が働く性質をもった場のこと。単位長さあたりの電位差。身体全体が電波にさらされる場合に適用される管理指針は、電界強度に基づく指針値を含んでいる。

指針値は、6分間平均値で規定され、[V/m]の単位で表される。

(9) 磁界強度

電磁界の磁界の強さであり、磁界は磁石などの磁荷が力を受ける場のこと。身体全体が電波にさらされる場合に適用される管理指針は、磁界強度に基づく指針値を含んでいる。

指針値は、6分間平均値で規定され、[A/m]の単位で表される。

(10) 電波

電磁波の一種。日本の電波法などでは300万MHz以下のものと定義される。

周波数に応じて、放送・通信、レーダー、医療、無線ICカード、ETC、カーナビゲーションシステム、電子レンジなどの広範な分野で応用されている。


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(11) マイクロ波

周波数300MHz~30GHz(波長1m~1cm)程度の電磁波の総称。通信などに利用される。

(12) ミリ波

周波数30GHz~300GHz(波長が10mm~1mm)程度の電磁波の総称。通信などに利用される。

(13) テラヘルツ波

THzの周波数を持つ電磁波の総称で、ミリ波と光線の間に位置する。極遠赤外線とも呼ばれる。次世代(6G)の通信規格ではテラヘルツ波の活用が検討されている。

(14)(電離)放射線

電離作用(放射線が物質を通過するとき、持っているエネルギーを原子や分子に与え、電子をはじき出す働きのこと)を持つ放射線。α線、β線、γ線、X線、陽子線、中性子線などがある。γ線やX線は電磁波の一種である。

これに対し紫外線より周波数の低い電離作用を持たない電磁波を「非電離放射線」ともいう。電波は非電離放射線に該当する。

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(15) 電磁波

電磁波とは電界と磁界が互いに影響し合いながら空間を光と同じ速さで伝わっていく横波のこと。

電磁波は周波数によって性質が大きく異なる。周波数が低い電磁波は波長が長く、周波数が高い電磁波は波長が短い。

電波は電磁波の一種であり、日本の電波法では300万MHz以下のものと定められている。

(16) 周波数、Hz(ヘルツ)

一定の周期で繰り返す振動(振り子など)や波動(電波や音波など)について、1秒間の繰返しの数をそれぞれ振動数、周波数と呼び、その単位がHzである。Hzは1秒間に1回の振動または周波数と定義される

(17) 周期

周波数の逆数、すなわち一つの波に要する時間が周期である。一つの波の長さは電波の速度を周波数で割るか、速度に周期を掛けた値で求められる。電波も光も電磁波であり、真空中の電磁波の速度は普遍的に光速度(3×108 [m/sec])である

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機関名とそれに付随する用語

(18) 総務省

日本の行政機関の一つ。

放送・通信などに利用される電波(高周波電磁界)に係る規制を所管する機関である。

電波防護に係る規制を所掌する。

(19) 電磁界情報センター

2008年に一般財団法人 電気安全環境研究所(JET)内に設立された、中立的な電磁界リスクコミュニケーションを目的とした常設機関。

(20) 世界保健機関(WHO)

(英語)World Health Organization

国際連合の専門機関の一つ。1996年に電磁界ばく露の健康リスクを調査するために「国際電磁界プロジェクト」を立ち上げた。

(21) ファクトシート

WHOが公開している疾病や健康課題に関する一般向けの基本情報。

(22) 環境保健クライテリア(EHC)

(英語)Environmental Health Criteria

世界保健機関(WHO)、国際労働機関(ILO)及び国連環境計画(UNEP)が共同で実施している国際化学物質安全性計画(IPCS)の活動のひとつで、広範囲な化学物質をはじめとして騒音、電磁界へのばく露に関してまとめられたリスク評価書。

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(23) 国際がん研究機関(IARC)

(英語)International Agency for Research on Cancer

WHOの一機関で、発がん状況の監視、発がん原因の特定、発がん性物質のメカニズムの解明、発がん制御の科学的戦略の確立を目的として活動しており、発がん性評価(発がん性分類)を実施している。

(24)発がん性評価

IARCは、主に、人に対する発がん性に関する様々な物質・要因(作用因子)を評価し、4段階に分類している。IARCによる発がん性の分類は、人に対する発がん性があるかどうかの「証拠の強さ」を示すものであり、物質の発がん性の強さやばく露量に基づくリスクの大きさを示すものではない。

4段階の内訳は、グループ1(ヒトに対して発がん性がある)、グループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)、グループ2B(ヒトに対して発がん性があるかもしれない)、グループ3(ヒトに対する発がん性について分類できない)とされている。

電波は2011年にグループ2Bに分類された。

(25) 国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)

(英語)International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection

1992年に設立された、非電離放射線防護のための国際委員会。電磁界ばく露制限に関するガイドラインは多くの国の規制に取り入れられている。

(26) 米国連邦通信委員会(FCC)

(英語)Federal Communications Commission

1934年に設立された、米国の電気通信・放送分野における規則制定、行政処分の実施を所掌する独立規制機関。

(27) 米国食品医薬品局(FDA)

(英語)Food and Drug Administration

米国保健福祉省(Department of Health and Human Services, HHS)の一部局で、医薬品、食品、医療機器、化粧品などの効能や安全性を確保することを通じ、消費者の健康を保護することを目的として、企業が行った安全性試験の検証、製品の検査・検疫、安全を確保するための規制、調査研究を行う。NTP研究の参加機関の一つ。携帯電話端末等の無線機器の製品安全を所掌する。

(28) 米国国立衛生研究所(NIH)

(英語)National Institutes of Health

1887年に設立された米国保健福祉省(HHS)管轄下にある医学研究の拠点機関。

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(29) 米国国立環境衛生科学研究所(NIEHS)

(英語)National Institute of Environmental Health Sciences

米国国立衛生研究所(NIH)の研究所の一つで、人間の健康と環境に関する科学的知識の向上と世界の人々の健康と福祉への貢献を目的としている。NTP研究の参加機関であり、プログラムの責任者は同研究所の所長が務める。

(30) 米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)

(英語)National Institute for Occupational Safety & Health

1970年に設立された業務関連傷害・疾病の防止を目的とした研究および勧告を行う米国の連邦機関。NIOSHは、米国保健福祉省(HHS)管轄下の疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention, CDC)の1組織である。

(31) フランス国立食品環境労働衛生安全庁(ANSES)

(フランス語)Agence nationale de sécurité sanitaire

公共政策立案を啓発することを目的として、食品、環境、および労働における健康リスクを評価することを主な使命とする2010年に設立されたフランスの政府機関。電磁界の健康影響の研究・評価・勧告を担当する。

(32) オーストラリア放射線防護・原子力安全庁(ARPANSA)

(英語)Australian radiation protection and nuclear safety agency

1999年に設立されたオーストラリア保健省の下部組織で、電磁界ばく露規制を所管している。

(33) スウェーデン放射線安全庁(SSM)

(スウェーデン語)Strålsäkerhetsmyndigheten

(英語)Swedish Radiation Safety Authority

2008年に放射線防護法に基づいて設立されたスウェーデンの放射線防護に関する規制機関。低周波から高周波の全領域にわたる電磁界ばく露防護の業務を担当し、関連する規則作成に関わる。

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(34) 欧州委員会 新興・新規特定の健康リスクに関する科学委員会(SCENIHR)

(英語)Scientific Committee on Emerging and Newly Identified Health Risks

欧州委員会の健康・消費者保護総局が管理していた独立した科学委員会の1つで、消費者製品に関連する問題について委員会に科学的助言を提供していた。

2016年に保健衛生・環境及び新興リスクに関する科学委員会(Scientific Committee on Health, Environmental and Emerging Risks, SCHEER)に組織改編された。

(35) GSMアソシエーション(GSMA)

(英語)GSM Association

2Gの通信方式(GSM)の普及を目的として1995年に設立され、移動通信事業者や関連企業など1000社以上が参加する世界規模の業界団体。

(36) オランダ保健評議会(HCN)

(英語)Health Council of the Netherlands

オランダの公衆衛生及び健康ヘルスケア分野で政府と議会に助言することを法的任務として1902年に設立された独立科学諮問機関。

(37) 欧州科学技術研究協力機構(COST)

(英語)European Cooperation in Science and Technology

1971年に開始した政府間合意に基づくフレームワークで、欧州内外における研究開発投資の効率化や一本化を促進すること、研究開発機関、大学や産業界の共同研究を促進することを目的としている。

(38) 英国保健防護庁(HPA)

(英語)Health Protection Agency

英国保健省などにアドバイスを提供することで、英国の公衆衛生を保護するために統合されたアプローチを提供する役割を持っていた非省庁型公共機関。

2013年に保健省の執行機関である英国公衆衛生庁(Public Health England, PHE)の一部となった。PHEは2021年に英国健康安全保障局(UK Health Security Agency, UKHSA)に組織改編された。


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研究プロジェクト名

(39) INTERPHONE研究

IARCが実施した、携帯電話の高周波放射による発がん性に関する世界規模の疫学研究で、携帯電話からの電波による発がん性を症例対照研究によって検討した。2000年に開始され、2010年に最終報告が発表された。

日本をはじめ13か国が研究に参加した。

(40) REFLEXプロジェクト

(英語)risk evaluation of potential environmental hazard from low energy electromagnetic field exposure using sensitive in vitro methods

「低エネルギーの電磁界へのばく露による潜在的な環境ハザードに関する高感度インビトロ手法を用いたリスク評価」は、欧州連合が資金助成をし、欧州7か国の12の独立的な研究グループが2000年から2004年まで実施したプロジェクト。

毒物学および分子生物学で開発された高度な方法と手順を適用して、たとえば電力線や通信システムからの電磁界ばく露によって引き起こされる可能性のある細胞および細胞内システムの基本的なメカニズムを調査することを目的としていた。

(41) 米国国家毒性プログラム(NTP)

(英語)National Toxicology Program

米国保健福祉省が中心となり化学物質の毒物学、分子生物学の研究を行い毒性物質、特に発がん性物質の、最新の検査・研究手段の開発、試験、分類を行う省庁横断的プログラム。

電波の発がん性に関する研究を2002年に開始し、2018年に最終報告書を発表した。


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その他

(42) 3G

3rd Generation Mobile Communication Systemの略で、第3世代移動通信システムの通称。主な通信規格にW-CDMAとCDMA2000がある。日本においては、2022年以降、順次サービス提供が終了となる。

(43) 4G

4th Generation Mobile Communication Systemの略で、第4世代移動通信システムの通称。主な通信規格にLTE(Long Term Evolution)・LTE-Advanced等がある。我が国では2014年12月に総務省から「第4世代移動通信システムの導入のための特定基地局の開設計画の認定」が行われた。

(44) 5G

5th Generation Mobile Communication Systemの略で、第5世代移動通信システムの通称。主な通信規格に5G NR(NRはNew Radioの略)がある。我が国では2020年3月より商用サービスが開始された。

4Gよりも「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」の通信が可能となった。

(45) 電磁過敏症(EHS)

(英語)Electromagnetic Hyper Sensitivity

日常生活で電磁界にばく露される機会が増えていることを背景に、刺激作用や熱作用を生じるよりも遥かに低いレベルの電磁界にばく露されることにより生じると訴えられている、頭痛や睡眠障害などの不特定の症状。WHOはファクトシートNo.296にて「電磁過敏症の症状を電磁界ばく露と結び付ける科学的根拠はない」との見解を示している。

(46) 熱作用

電波の人体に与える影響の一つ。人体に吸収されたエネルギーが熱となり、人体の体温を上昇させる。この体温上昇によって起きる生体作用を熱作用という。熱作用による人体への好ましくない影響がないように、電波防護指針が規定されている。

(47) 刺激作用

電波の人体に与える影響の一つ。電波の影響によって体内で発生した誘導電流がある程度の強さを超えると「ビリビリ」「チクチク」と感じる。これを刺激作用という。刺激作用による人体への好ましくない影響がないように、電波防護指針が規定されている。

(48) 非熱作用

刺激作用と熱作用のほかに、電波によって生じると言われる作用で、弱い電波による遺伝子損傷、がん発症、頭痛、睡眠や学習への影響が懸念されている。これまでの科学的研究では、電波が非熱作用を引き起こすという確固たる証拠は示されていない。


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