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【1999-1-1】メラトニンが肝臓の前がん病変に及ぼす抑制作用についての研究
目的
以前の研究では、F344系統の雄のラットを900MHz及び1.5GHzの電波にばく露させた結果、肝臓発がんの促進は見られず、逆に肝臓の前がん病変の指標であるグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST-P)陽性細胞巣の個数及び面積が僅かに減少することが示されました(今井田他、Carcinogenesis 1998;今井田他、Jpn. J. Cancer Res. 1998)。両実験では、電波ばく露群におけるメラトニンの血清レベルの上昇が観察されました。高いレベルのメラトニンは細胞増殖やDNA合成を抑制することが報告されています。このため本研究では、メラトニンの血清レベルの変化が、電波にばく露されたラットの肝臓の前がん病変の進行を変化させたかもしれないという疑問点を明確にするため、メラトニンの投与量の違いがGST-P陽性細胞巣に及ぼす影響を分析することを目的としました。
方法
F344系統の雄のラット(6週齢)に対し、肝臓がんを誘発するために単容量のジエチルニトロソアミン(DEN、体重1kgあたり200mg)を投与しました。2週後から、0、1、5、10、20ppmのメラトニンを飲料水に混ぜて投与しました(5日間/週、6週間)。メラトニンの概日リズムを維持するため、メラトニン投与は夜間(18:00~09:00)にのみ行いました。3週目に、全てのラットに対して肝臓の2/3切除を実施しました。ラットの体重を週1回測定しました。8週目に実験を終了しました。実験終了後に摘出した肝臓の部位ごとに標本を作成し、GST-P陽性細胞巣の個数及び面積を、画像処理装置を用いて測定しました。また、各ラットの主な臓器の重さを測定し、組織病理学的分析を実施しました。ホルモン分析のため、メラトニン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、コルチコステロン、テストステロン、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)の血清レベルを測定しました。
結果
メラトニンを5ppm以上投与されたグループには、対照群と比較して、体重及び肝臓の重量の有意な低下が観察されました。メラトニンを5ppm以上投与されたグループには、投与量に依存したメラトニンのレベル上昇が観察されました。また、投与のタイミングにかかわらず、夜間(00:00)と日中(09:00)のレベルは同等でした。メラトニン投与量が最も高いグループ(20ppm)には、統計的に有意なLH及びテストステロンのレベル低下が観察されました。コルチコステロンのレベルには有意差は見られませんでした。ACTHのレベルには差が見られましたが、メラトニン投与量とは無関係でした。肝臓のGST-P陽性細胞巣については、メラトニン投与群では個数及び面積の両方とも低下していましたが、有意な低下が観察されたのは10ppm投与群における個数のみでした。
結論
本研究では、飲料水中への低容量のメラトニン投与と、F344系統の雄のラットにおけるGST-P陽性細胞巣の減少傾向と関連が示されました。以前の研究では、900MHz及び1.5GHzの電波ばく露群において、メラトニンの血清レベルの上昇が観察されています。この結果と本研究の結果の比較から、メラトニンの血清レベルの変化が、GST-P陽性細胞巣の減少を生じるメカニズムの1つかもしれないということが示唆されました。
出典
Imaida K, Hagiwara A, Yoshino H, Tamano S, Sano M, Futakuchi M, Oawa K, Asamoto M, Shirai T. Inhibitory effects of low doses of melatonin on induction of preneoplastic liver lesions in a medium-term liver bioassay in F344 rats: relation to the influence of electromagnetic near field exposure. Cancer Letters. 2000 Jul 3;155(1):105-14.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10814886
WHO研究データベース
http://www.who.int/peh-emf/research/database/emfstudies/viewstudy.cfm?ID=13